mitosaya薬草園蒸留所

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9月
ポラーノの広場で何飲もう?

September 2018

熱海に住む友人家族が連休に遊びに来たいと連絡をくれて、そうこうしているうちに結局その話は流れてしまったのだけど、宮沢賢治好きの彼から「mitosayaはポラーノの広場みたいだ」というようなことを伝えられ、そいういえばどんな話だったかなと久しぶりに読み返した。

モリーオ市の博物局に勤める男性、キューストは、競馬場を植物園にリノベーションする事業の担当になる。植物標本を作り整理をして過ごすのが趣味の彼にとっては最高の職場で、使われなくなった小さな蓄音器と二十枚ばかりのレコードをもって、競馬場の番小屋にひとり引っ越す。ある日、飼っていた山羊がいなくなり、探しているうちにファゼーロという少年に出会う。彼からどんな人でも上手に歌うことができるという伝説の広場、ポラーノの広場が復活したことを伝えられる。苦労の末訪れた広場では、山猫博士をはじめとする木材乾溜会社の者たちが酒盛りと歌合戦の真っ最中。作るものの相場が下がって事業が成り立たなくなった彼らは、工場の設備を使って「藁わら酒」なる密造酒の製造を行うようになり、その酒で酒盛りをしていたのだった。

モリーオ市の博物局に勤める男性、キューストは、競馬場を植物園にリノベーションする事業の担当になる。植物標本を作り整理をして過ごすのが趣味の彼にとっては最高の職場で、使われなくなった小さな蓄音器と二十枚ばかりのレコードをもって、競馬場の番小屋にひとり引っ越す。ある日、飼っていた山羊がいなくなり、探しているうちにファゼーロという少年に出会う。彼からどんな人でも上手に歌うことができるという伝説の広場、ポラーノの広場が復活したことを伝えられる。苦労の末訪れた広場では、山猫博士をはじめとする木材乾溜会社の者たちが酒盛りと歌合戦の真っ最中。作るものの相場が下がって事業が成り立たなくなった彼らは、工場の設備を使って「藁酒」なる密造酒の製造を行うようになり、その酒で酒盛りをしていたのだった。

酒を飲まないキューストは酔っ払いと喧嘩になる。

…密造酒の製造工場の話じゃないか。

宮沢賢治はお酒を飲む人に対してあまりいい印象がなかったのだろう。文中にもこういう一節をキューストに言わせている。

“諸君、酒を呑まないことで酒を呑むものより一割余計の力を得る。たばこをのまないことから二割余計の力を得る。まっすぐに進む方向をきめて、頭のなかのあらゆる力を整理することから、乱雑なものにくらべて二割以上の力を得る。そうだあの人たちが女のことを考えたり、お互の間の喧嘩のことでつかう力をみんなぼくらのほんとうの幸をもってくることにつかう。見たまえ、諸君はまもなくあれらの人たちへくらべて倍の力を得るだろう。けれどもこういうやりかたをいままでのほかの人たちに強いることはいけない。あの人たちは、ああいう風に酒を呑まなければ、淋しくて寒くて生きていられないようなときに生れたのだ

人生の苦難をやりすごすためのもの。お酒にはそういう一面もあるとはいえ辛辣ではある。

ところで、ここで出てくる「藁酒」とはいったいどういうものだろう? ちょっと調べてみると宮沢賢治の創作と言われており、そのようなお酒があったわけではないらしい。とはいえ彼がイメージしたものはあったはずだ。

ウォッカにバイソングラスを挿して香りをつけたズブロッカと同じような、日本酒に藁を挿したものを連想してしまうが、密造酒なのだからそんな洗練されたものではないだろう。

藁自体を発酵させてお酒を作るというのも聞いたことがない。うっかりすると堆肥や納豆になっちゃいそうで難しそうだ。素材ごとにあらゆる利用法が載っている「本朝食鑑」をひいてみたが、藁については、灰」と「煤すす」だけと素っ気ない。

木材乾溜所という彼らの持っていた設備がヒントになるかもしれない。木材乾溜とは、木材を空気を断った状態で、れんがや鉄の窯で蒸し焼きにすること。酸素を除いて熱することで、燃えることなく木材が個体と液体に分解され、木炭や木酢液,木タールなどを抽出することができるのだという。更に木酢液を蒸留すると今度はメタノールができるのだそうだ。つまり、藁酒は藁を乾留することで、メタノールを作りそれをお酒として飲んでいたんじゃないかと想像できる。

それを表すこんな一文もある。

“あなたはよっぽどうまくだまされておいでですよ。あの工場からアセトンだと云って樽詰めにして出したのはみんな立派な混成酒でさあ。悪いのには木精(メタノール)もまぜたんです。その密造なら二年もやっていたんです

メタノールは燃料などに使われる工業用のアルコール。エタノールと違い体内で無害化されないため、毒性は非常に強く、30ml~100mlで致死量となる。そんな危険なことをやっていたらよくないに決まっている。

一方、お酒を飲まないキューストたちが飲んでいたものは、酒石酸を冷たい水で割ったもの。ワインの底に沈殿している酒石(酒石酸カリウム)は、なめてもほとんど味はしないが、酒石酸には強い酸味がある。ちょっと酸味を加える意味で水に混ぜていたのだろう。

また、昔は酒石酸に疲労回復や整腸作用があると言われていたそうで、当時のエナジードリンクのようなものだったのだろうか。

手にしている飲み物からもわかる通り対象的な両者だが、その後、山猫博士の経営する木材乾溜所(兼密造酒工場)は倒産し、一方少年ファゼーロは、革染め工場で働いて革をなめす技術を会得して戻ってくる。そして、ポラーノの広場は、キューストの助言により、革をなめしたり、ハムを拵えたり、栗を蒸して乾かしたり、農民たちが自分たちでものづくりを行う共同組合へと発展する。

これが宮沢賢治の考える農民の理想的な姿だったのだろう。

しかし、時代が変われば作るものもその見方も変わる。例えば、賢治が善・健康なものの象徴として描いた酒石酸。第二次世界大戦中は酒石酸にカリウムとナトリウムを化合してつくる「ロッシェル塩」の結晶が、海中の音波を電気信号に変換し敵艦の音を検知するソナーの材料として使われた。そのためワイナリーからは酒石酸が徴収された

時代遅れと思われた木材乾溜も、今ではウッド系や化石系のエッセンシャルオイルの抽出方法として欠かせないものだし、チャノキを乾留した茶乾留液はペットの臭い消しなどにも使われている。

自然には善も悪もなくて、使う人間次第だということだ。

とはいえ、アルコールには人間にとって害がある。というのはもちろん認めざるを得ない。それに対しての返答で気に入っているのは、クリストフがインタビューで答えていたこんな文句。

“私にとってはアルコールは重大なものではない。私は果物からEau-de-vieを作ることを愛している。もし可能なら、アルコールがなくてもいいんだ。アルコールは香りを抽出するために必要で、アルコールには、香りの分子を束ねる力があるんだ。だから、果物の蒸留にはアルコールは関係ない

そしてもう一つ、最近issyさんが送ってきてくれてきた一枚もけっこういい。

“私はアルコールを飲んでいるのではない。私は蒸留酒(スピリッツ)を飲んでいるのです。だから私はアルコール依存症などではなく、私は気高く崇高な精神を持っているのです

さてどんな広場ができるのか。ますます混迷していますが、mitosaya広場にぜひいらしてください。

ポラーノの広場(青空文庫)