mitosaya薬草園蒸留所

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7月
ものさしを借りに

July 2018

西武新宿線の駅を降りて小さな商店街を抜けた住宅街の一角に、ちひろ美術館・東京はあった。現在、画家・絵本作家、いわさきちひろの生誕100年記念で、いわさきちひろにインスパイアされたアーティストによる連続企画展が行われている。この週末まではアパレルブランド Spoken words projectの「着るをたのしむ」展が開催中だ。

会場ではいわさきちひろの絵、スポークンの服、ちひろのスケッチ、スポークンのテキスタイル、といった具合に、色相的に関連のある作品が並べて見られるようになっていた。別棟の建物にはいわさきちひろのアトリエが再現された空間。続く大部屋に、壁から床まで、7,8メートルはあろうかという大きな4本の布に展開する、大胆なデザインのテキスタイルが圧巻だ。

二人の作品に共通することは、偶然の取り込み方だと感じる。まずにじみがあって、そのにじみをモチーフに取り込み子供を描くいわさきちひろ。グラフィックに展開していくのがスポークン。最初が偶発的なものだから、答えにも驚くような飛距離がある。

そして二人に共通するのは詩心。たとえ文字がなくても伝わってくる言葉がある。だから単にきれいとかかわいいではない感情が刺激されるのだろう。ちょっと遠かったが行ってよかった。

しかしこんな住宅街にどうして美術館があるのだろう? という疑問から手にとったのが「ちひろ美術館物語」松本由理子 著。たまたまいわさきちひろの息子と結婚した音大生が、彼女の急死後、記念美術館を作る計画に携わることになる。残された膨大な絵の整理、美術館設立のための資金集め、若い建築家との協働、役所との折衝、展覧会の企画に出版物の刊行…。社会経験もない若い夫婦が、いわさきちひろという巨大な存在に巻き込まれ翻弄されながらも、徐々に自らの力で美術館を形にしていき、スタッフと共に運営していくさまは、場所をつくることの大変さと、そのゆえの達成の大きさを教えてくれる。

現在僕が置かれている状況に似通った部分も多々ある。この後局地的いわさきちひろ&トットちゃんブームがやってきて何冊か読む。


新木場のコンプレックススペース casicaで、夏の間、週末の夜だけ行われる「薬草と麦酒」というイベントのドリンクを考えてほしいという依頼をもらった。新しいカクテルを作るというよりは、CASICA(可視化)というショップのテーマから、組み合わせではなく、バラしていく方向で考えてみることにする。あとは植物やハーブをふんだんに使うのもmitosaya的大事な使命。

その結果できたのは、例えば、レモンを極力使わず、レモンマートルやレモンバーベナの穏やかな香りで楽しむ、ハーバルレモンサワーや、3種類の旬のミントを使って、ピッチャーで提供する、トリプルミントモヒート。ビールにバジルとセロリ、アイスキューブのように凍らせたミニトマトを入れた、レッドアイを分解した可視化レッドアイなど。

個人的にはノンアルコールのカクテル、モクテルを作るのがいい経験になった。通常のカクテルからベースのお酒を抜き、ただフルーツやシロップを使うとどうしてもただ甘いだけの飲みものになってしまう。カルダモンやシナモンといったスパイス、甘酒や麹といったコクのあるものを使うと、とたんにモクテル感が出てくる。ただのフレッシュフルーツのジュースととモクテルの境界線はどこにあるのか、今度プロのバーテンダーにも聞いてみよう。

7月の後半、早めの夏休みを取ることにした。

新千歳空港でレンタカーを借りて、まず向かったのは今春、札幌 紅桜公園内にできたばかりの紅櫻蒸溜所。北海道初のクラフトジン蒸留所などだという。

入園料を払って園内に入ると、木々が生い茂る敷地はひんやりと寒いほど。真夏なのにたんぽぽが咲いている。釣り堀やジンギスカンレストランの向かいにある元倉庫を改装して作ったという施設に、失礼ながら不釣り合いなぐらい立派なイタリア製の蒸留器が据え付けられていた。将来的にはウィスキーを作れるようにということらしい。

開店前のジンギスカンレストランのカウンターで試飲をさせてもらう。使われている昆布や椎茸の効果か出汁感のある不思議な味。最近のジンのボタニカルは出汁系、海系がトレンドですね。


はるやで昼食。chiobenの千織さんの妹、千春さんが営むお店。昼間は春巻きにすべてが詰まったランチ、夜は単品のメニュー。千織さんが東京に来るまで、長年二人でお店をやっていただけあって、作る料理は似ているものの、プレゼンテーションは真逆といっていいくらい違う。黒板に丁寧に書かれたメニューやカウンターに几帳面に重ねられた食器を見ながら、美味しそうについて考える。


札幌の建築設計事務所トロッコの二人が、週末だけトロッコ商店なるショップを営んでいる。今回の目的の一つはこの店に行くこと。ネットの少ない情報によると「量り売りとものさし」の店だという。

量り売りというのがまずいい。麻の布、洗剤、オリーブオイル、塩、電気のコードなど、こじんまりとしたお店に、パッケージを取り去っても魅力のある、しっかりと選ばれたものがある。

もう一つの「ものさし。といっても定規や巻き尺が売っているわけではない。量り売り以外の商品がものさしだとすると、活版印刷で刷られた原稿用紙、瓶の先につける注ぎ口、持ち帰り用の空き瓶などが目に入ってくる。これらに共通することはなんだろうと考えると、ものとの付き合い方を指し示すようなものだと想像する。これが彼らの考えるものさしなのだろう。

量り売りとものさし。

改めていいテーマだ。

自社で足を運んで輸入したヨーロッパの自然派のワインだけを取り扱う 二番通り酒店や、ショップに併設した工房で石けん屋を作っている Savon de soleilなどにも足を運ぶ。

札幌のクラフトシーンはとても洗練されている。


翌日札幌から西へ約二時間、日本海を望む積丹半島でジンを作るという「積丹スピリット」というプロジェクトが始まっている。昔はニシン漁で大いに栄えたという港町は閑散としているが、番屋と呼ばれる漁師たちが寝泊まりしていた建物を改装したカフェや、積丹ブルーと呼ばれるターコイズブルーの海、丼いっぱいに盛られたウニ丼など、パンチのある歓待をいただき、すぐにシャコファンになった。

食後、原料を栽培する予定地に案内してもらう。元は牧場だったという山の中腹の敷地は約80ヘクタール。そこにジュニパーベリーやヤロウ、ハッカなどの原料が植えられ、ヤギが歩き雑草を食べている(ハーブは匂いが強いので食べない

これから開墾する場所には7匹の馬を飼って土壌改良を行っているというのだから、スケールの大きさと、タイムスパンの優雅さに恐れ入る。

この後、蒸留所建立候補地も見せてもらったけれど、美しい積丹の海と山々を同時に見れる素晴らしいロケーション。積丹スピリッツ、楽しみだ。


ニセコではBar Gyu+(ギュータス)を訪れた。コカコーラの自販機が扉になっていて、小さな扉を開けると現れる白樺の林が一望できるカウンターが圧巻だ。夏の間は2階は小さな映画館になる。

Gyu+を開いて今年で20年。オーナーの山崎さんとヨアンナさんが、長い時間かけて積み上げてきたことがよくよくわかる心地よい空間だった。

その土地らしさとユニバーサルに開かれた感覚。それぞれのものさしで北海道を案内してもらった贅沢な体験でした。