mitosaya薬草園蒸留所

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8月
For the birds
(ちっぽけなこと)

August 2018

通っていた高校の隣駅は少し栄えていて、その頃遊びに行くのはたいていこの町だった。ある時、駅を出て線路沿いの細い道を5分ほど歩いた先に、うらぶれたラブホテルの裏口から入る怪しげな店を見つけた。ホテルの入口は大通り側にあって、裏口は斜面に建つ建物のため半地下になっている。元は管理者事務所にでも使われていたような小さなドアを開けると、薄暗い中に大音量で音楽が流れるバーカウンターが現れる。初めて行ったバーと呼ばれる場所だった。デヴィット・ボウイやジャニス・ジョプリンを知ったのはこのバーだし、そういえばコンビーフやオイルサーディンというものをはじめて食べたのもここだ。そしてもちろんバーボンウィスキーなんてものを飲んだのもここがはじめてだった。

そのバーは[SongBird]という名前で、手書きの看板が電車の窓からも一瞬見えて、この車内でおそらく自分だけが知っている店があることが大人になったようでむずむずと嬉しかった。

木更津に[SongBird Beer]というビール醸造所があると知って、そんな昔のことを思い出していたら、SongBird]と[SongBird Beer]は、同じ[SongBird]だということを知って驚いてしまった。

どういうことかというと、ビール醸造所を立ち上げるつもりで名前を考えていた二人が、物件を借りていた不動産屋さんの倉庫に[SongBird]と書かれた看板が転がっているのを見つけた。不動産屋さんに聞けば、SongBird]のマスターから「いつか再開するときまで預かっていてほしい」とお願いされ置いてあるのだという。それから二十年以上経ち、もう取りに来ることもないだろうからと看板ごと[SongBird]という名前を引き継いだのだという。


8月の日曜日の昼、木更津の住宅街の一角にある、SongBird Beer]を訪れると、小さな子が裸でカウンターの前で遊んでいた。小さな試飲スペースもあって地元っぽいおじさんがビールを楽しんでいる。カウンターの奥の醸造所で作るビールはベルギービールタイプ。ホップの違いや小麦の違いで飲ませる。

ホップ2倍だ、いやトリプルだって最近の刺激インフレ気味のビールにちょっと疲れ気味の身にはちょうどいい。

昼間から醸造所を訪れてのんきにビールを飲んでいる、というわけではなく、これはmitosayaが酒類製造業の営業許可をとるためのリサーチの一環だ。


蒸留所として営業するには、保健所の営業許可申請というものを行う必要がある。消防署や税務署への許可申請もあります

今回、あまり過去事例のない蒸留所の改修なので、何度か保健所に相談に行って、図面や素材のサンプルを見てもらい、指摘されたところは修正し、不明の点は問い合わせをしながら、慎重に改修を進めていった。

蒸留所の改修がほぼ完了し、蒸留器等機器が設置されたところで、許可申請のための一連の書類を提出し、最後に現地調査に来てもらうことになる。たいていは事前に申告したとおりにできているかを確認するという程度のことだ。

ところが、現地調査に来た保健所の担当者は一通り見た後に、一旦持ち帰らせてほしいという。嫌な予感がする。そして数日後、保健所に来てほしいと連絡があり訪れると、なんと、天井を新たに貼るように、という指導を受ける。

酒類製造所の建物に求められる条件として「平滑で掃除のしやすい天井であること」という一文がある。これを満たしていないというのだ。


今回、元々薬草園の展示室だった部屋の天井を抜いて、屋根と天窓が見えるようにした。窓のない部屋のため光を入れ換気も行うためだ。発酵室、蒸留室の屋根下部分には、配線などを収めるためにスタイロフォームを貼ったのだけど、これが天井と認められず、屋根裏がむき出しの「天井が貼られていない」という謎の判定に至ったらしい。

運が悪かったのは、事前相談に伺っていた担当者は今年の春で定年退職しており、引き継ぎもされておらず、その時のことをわかる人がいないこと。

これが天井であるといくら力説しても理解してもらえず、こちらで同じような事例を集めたり、構造の説明を行うための資料を作って再度提出することにした。

同じような環境で酒類を作っている製造場は、全国を見渡せばいくらでも事例はあるが、保健所からは、同じ千葉県で平成12年以降に作られた事例じゃないと参考にならないとこれまた謎のルールを言われ、というわけで冒頭の[SongBird Beer]訪問になる。

しかし、国の基準に基づいているのに県ごとに判断ルールが違うのも本当に謎だ。

懸命に他の事例を集め、前担当者との議事録を用意し、また構造についての図面を用意し再度提出したところ、数日後、蒸留室において、異物混入を防ぐための補助的な構造物を設ければ、再検討できる」という返事をもらう。

こんなもの見たことないなあと思いつつ、蒸留機の抽出口に異物が入らないようなカバーを作る。

再度保健所の担当者が現地調査にやってきた。すっかり人に慣れた猫のあんこときなこも、調査の最中は隠れていてくれる。

数日後、無事許可がおりたと連絡をもらい許可証を取りに行く。許可番号30-1号。こんなペラペラなものもらうためにずいぶん苦労したなあ。

もうちょっとです。